Tuesday 19 August 2008

養老孟司

いわゆる世間で囃し立てられている本を読むことは少ない。養老孟司の『バカの壁』もその顕著な例であったが、読んだ。数百万部も売れた背景を知りたかったことと、あだ名が"クマ"という仲良しの"おっさん"(※)が理系本として読めば悪くないとすすめたからだ。

随分前に読んだのでよく覚えていないのだが、売れた理由は"売れたから"以外には分からなかったと記憶している。"在るものは在るもの、気張らずに"と"少しは考えて生きろ"がメッセージで、このメッセージを諸々の事象を生理的な"脳"の観点から考察する本とKalafは自分に押し込んだ。

確かに"クマ"の言った通り、理系本としての側面は面白かったと記憶している。この手の理系的な側面は頭に立体のイメージを起こさせることがよくあり、これが好きだ。

あわせて『無思想の発見』も読んだ。タイトルの通り、"日本には無思想という思想がある"というメッセージ。この本は面白かった。すっと入った箇所を抜粋する。

  1. 異なる社会では、世間と思想の役割の大きさもそれぞれ異なる。世間が大きく、思想が小さいのが日本である。逆に偉大な思想が生まれる社会は、日本に比べて、よくいえば「世間の役割が小さい」、悪くいえば「世間の出来が悪い」のである。(p.71)
  2. 「ひとりでにそうなった」というのが、つまり日本の思想なのである。(p.83)
  3. 「日本に思想はない」、あるいはむしろ「世間に思想はない」という立派な思想が、その世間にすでに存在するからである。(p.93)
  4. 日本の世間が「俺には思想なんかない」で、ここまでやってこられたについては、もちろん世間という「実情」があったからである。いわゆる「現実」が存在したのである。(途中略)「思想というものがない」社会で「世間という現実」が危うくなれば、すべては崩壊に近づくしかない。(p.102-103)
  5. 「思想なんてものはない」。これは思想におけるゼロに発見である。(p.114)
  6. 日本の思想を考えるなら、「書かれない思想」について書くしかない。(p.142)
一見、藤原正彦の『国家の品格』的(愛国的)な印象を受けるかもしれないが(Kalafは途中までしか読んでいない)、そんなことは決してない。日本人の思考回路、判断基準に関する読み物だ。今日の問題の一つの文化的バックグラウンドを示唆しているとも言える(特に引用#4)。

※)ブラジルのアメリカン・スクール育ち。高校時に帰国、その後日本で海洋・水産を専攻。サッカーを狂おしく愛し、ツキノワグマの保護に奔走する。Kalafの元上司。クマはKalafを"トンボ"と呼ぶ。

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